これまでの有機合成反応は、遷移金属錯体の新触媒機能の開拓と共に発展してきました。しかし、これらの触媒機能は、埋蔵量に限りのある希少金属触媒によるものが殆どです。グリーンケミストリーに資するもの作り化学の実現には、希少金属触媒の機能を代替・凌駕するユビキタス金属触媒の機能開拓およびそれらを利用した有機合成反応の開発が必要です。この観点から我々は、地球上に豊富に存在する鉄やビスマス錯体の触媒設計に基づき、新しいルイス酸触媒としての機能を引き出し、環境負荷の少ない有機合成反応の開発を目指しています(図1)。
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遷移金属触媒を用いた従来の化学変換反応は、有機ハロゲン化物から調製する有機マグネシウムや亜鉛、ホウ素、スズなどの有機金属反応剤の使用が必要になるものがほとんどです。しかし、上記の多くの有機金属反応剤は不安定であり、化成品から数工程で調製されます。それゆえ、ステップエコノミー(化成品から標的分子までの合成経路の数)の観点から、有機ハロゲン化物を有機金属反応剤の代替に利用した反応開発が求められています。この背景から我々は、有機ハロゲン化物の直接的な化学変換を可能にするコバルトやニッケル触媒に特有の酸化還元能を利用し、有機ハロゲン化物を起点とした化学変換法の開発を目指しています(図2)。
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アルコールは、自然界に偏在する普遍炭素資源の一種であり、多くの化成品(有機ハロゲン化物や有機金属反応剤)の川上原料の一つとして知られています。つまり、アルコールの自在な化学変換は、枯渇資源に依存しない次世代の環境調和型物質生産法になると期待できます。我々は、脂肪族アルコールから容易に調製できる脂肪族トシラートの優れた求電子性に着目し、脂肪族トシラートを基軸とした、医薬品や有機材料開発の根底を支える様々なクロスカップリングを開発しています(図3)。本手法は、糖やバイオマス資源などの再生可能資源の有効活用法の創出にも繋がる化学変換プロセスです。
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